デッキ作りの最中、あなぬけのヒモ(BW6)のテキストを改めて眺めてみたところ、ある一文に目がとまった。(ひとりごとの延長のため常体使用)
(入れ替えは相手からおこない、ベンチがいないプレイヤーは、入れ替えをしない。)「ベンチがいない」。
ベンチ「が」とはどういうことだろうか。ベンチとはプレイグラウンド上の一箇所を指す言葉で、常在こそすれ、それ自体が居たり居なくなったりするものではない。例えば、空いたトイレを指して「トイレが居ない」などと言う文化を僕はよく知らない。
このテキストに関しては、明らかに「ベンチポケモン」のことを指して「ベンチ」と称している。意味は通じるが、「ベンチにポケモンがいない」とか、「ベンチポケモンがいない」とか、より相応しい表現を与えることも可能なはずだ。
注釈文の特例
なぜこのようなテキストに決まったのか。気になったので、手がかりを求めて公式サイトのアドバンストガイドを検索してみると、次のようなテキストの引用が見つかった。[ベンチへのダメージは、弱点・抵抗力の計算をしない。]これはLEGENDシリーズから記載されるようになった、ワザによるベンチダメージへの注釈文だ。(余談だが、これはルールの処理を明確化するためのもので、カードやワザ自体の効果ではない)
この「ベンチ」は、あなぬけのヒモ同様、確かにベンチポケモンのことを指している。ベンチは場所であり、ダメージを受けない。ダメージを受けるのはベンチポケモンなので、そう読み取るのが自然だ。
ヒモとベンチダメージのテキストには、注釈文であるという共通点が存在する。このことから推測すると、LEGEND以降の括弧や角括弧で閉じられた注釈テキスト内では、ベンチポケモンを単に「ベンチ」と呼んでよくなったのかもしれない。
LEGENDは新裏面のテキストインフレに歯止めをかけた素朴なシリーズだった。先述の注釈文に見られる「ベンチ」表記にも、テキストのシンプル化、文字数削減という目的があったのだろう。事実として、あなぬけのヒモのテキストは既に3行をフルに使っており、これに「ポケモン」の4字を足さずに済んだお陰で、結果的に1行増す事態を避けている。これだけでも、視覚への負担はやや軽くなる。
ポケカには「ダメージカウンター」や「トレーナーのカード」等の長い用語をいくつも縮めてきた歴史があり、それと似た現象と言えなくもない。
ルールの整合性
カードテキストは、それ自体が1つのルール。ルールを変えずに文字を省くのは難しい作業だ。例えば、次の似たような3つのテキストが示す処理はいずれも異なる。- 相手のベンチポケモンの数×20ダメージを追加。
- 相手のベンチポケモンの数×20ダメージ。
- 相手のポケモンの数×20ダメージ。
まとめると、カードの文字数を減らすために注釈文の中では「ベンチ」の一言で「ベンチポケモン」を指すことがあるが、それでルール運用に齟齬のあるようなカードは存在しない、ということらしい。
ただし、これらは推測に過ぎないし、本来その一部を切り出さない限り引っかかるようなテキストでもないことは確認しておく。
ワープポイントの歴史
ところで、あなぬけのヒモの祖先にあたるカードとして、全く同一の能力を持つ「ワープポイント」というカードがある。このカードの歴史は長く、初出は旧裏面時代にまで遡る。再録された回数も多い。それらのテキストを比較していくと、このゲームのルールが洗練されていく過程が伺えて面白い。注釈分だけ見ても、次のような違いがある。
- PMCG:(入れ替えは、相手プレイヤーが先におこなう。控えがいないプレイヤーは、入れ替えをしない。)
- VS:(ベンチにポケモンがいないプレイヤーは、入れ替えをしない。)
- e,ADV,PCG,DP:(ベンチポケモンがいないプレイヤーは、入れ替えをしない。)
参考:ポケモンは進化する生き物だが、カードのテキストも日々進歩を遂げている。ポケモンの進化に躊躇が必要なことは少ないが、開発室としては、長らく通用してきたテキストを見直し、手を加えることには慎重を期すだろう。今回取り上げた変更点はユーザーに違和感無く受け止められ、カードの見栄えを改善しているように見える。
- ポケモンWiki(http://wiki.xn--rckteqa2e.com/wiki/)
ヒモの「ベンチがいない」テキストへの変更は、ワープポイントの注釈文における4度目の進化と言えるのかもしれない。